アクロポリス

概要

ビザンツ・ギリシア帝国内に複数存在する古代ギリシアを象徴する建造物。小高い丘を意味するこの建物はアテネを始めとしてギリシアの各地に存在する。

アテネのアクロポリス

歴史

アテネに存在するアクロポリスは紀元前4000世紀ごろに始まった。当時、新石器時代を迎えていた。当時、アクロポリスの岩山では人々が麓の洞窟で暮らしているだけだった。紀元前2000年ごろに岩山の周辺に住居を構えて住み始め青銅器時代の紀元前1600年頃にはギリシア本土で最初の文明を築いたミケーネ人が進出してきた。進出して来たミケーネ人は岩山の頂上に城壁を築いた。調査の結果、高さ3ｍ、厚さ4ｍを超えるこの城壁が岩山に気付かれた最初の建造物となった。この時に築かれた城壁は現在も遺跡の一つとして見る事が出来る。
この時に気付かれた城壁の中には宮殿が作られ、王や貴族などの上流階級の人々が暮らしていたと考えられている。この時のミケーネ人の文明は紀元前1100年頃に突如として崩壊した*1が文明衰退後も岩山の周囲にはいくつもの集落が残っていたと考えられている。それらは紀元前800年頃には共同のルールと神々を信奉する都市国家が誕生した*2。
女神アテナの名を受けた都市国家の人々は岩山の頂上に女神の栄光を称えて神殿を建設した。その神殿は現存こそしていないものの、パルテノン神殿の下にその痕跡が残っていた。19世紀に行われた調査で大掛かりな建設工事が行われていた事も判明している。その調査の結果、以下の事が判明した。
紀元前490年頃、岩山の北側を削り、平らな地面を作ると南の崖に、1個数百キロもある石灰岩が何そうにも積み上げられた。この時に積まれた石積みの高さは11mにもおよび、長さ77m、幅31mにも及ぶ巨大な岩の土台が作られた。岩の土台は建物の基礎となり、その上に女神アテナを祀る神殿が築かれたという。これは古パルテノンと呼ばれ、最初のパルテノン神殿とされている。この時の建物は細長い長方形の形をしており、正面に6本、側面に16本の円柱が並んでいたとされる。広間は1つあり、幅が23m、長さは67m、高さは最大14mあったと推定されている。これからも分かる通り当時の技術をふんだんに利用した女神アテナの偉大な力を称えた壮大な建造物だったのが分かる。これらは現存していないが当時積み上げられた石積みと建造物の一部は残っている。
古パルテノン神殿はアクロポリスの建築の歴史で重要な転換点だったと言われている。その理由として古パルテノン神殿から土台に至るまで石灰岩のみを用いて建築されているからである。当時、石灰岩とは彫刻だけに使われている高級品且つ船で何日もかけて運搬される貴重な材料だったからである。
しかし、古パルテノン神殿建築の数十年の大発見で全てが変化した。アテネから北東17㎞離れたペンテリコン山に良質な大理石が大量に眠っていたのである。これが古パルテノン神殿を築くために使われた大理石だと判明しており、当時のアテネに恵みを与えたとされている。大理石は罅が入っている為採掘が難しいとされている石だが当時のアテネの人々は大人数で時間と労力をかけて大理石の塊を掘り出すとその場で加工したという。加工した物は木製の荷車に載せ、ラバに引かせてアテネまで17㎞の距離を運んだとされている。一つ運ぶのに1日かかる距離であり大変な労力と時間が掛かっていた事が推察される。更に、アクロポリス到着後も丘の上に持ち上げる必要があった。彼らはスロープを作り、滑車やラバを使って頂上まで運んだという。円柱にはタンブールと呼ばれる突起のついたものが使われておりこの突起に縄をかけ、巻き上げ式の木製装置を使う事で積み上げていったとされている。
しかし、そんな大掛かりな建造も中止となってしまう。復讐に燃えるペルシャ帝国の攻撃を受けたからである。紀元前480年にアテネはペルシャ帝国軍に破壊されたもののペルシャ帝国との戦争には勝利を収める事に成功した。勢いを取り戻したアテネの指導者たちは紀元前460年にアクロポリスの壮大な復興計画に取り掛かるを決めた。この背景には当時、民主主義が確立し、都市国家群のリーダー的存在になっていたアテネを文化的、政治的な中心地にするためでもあったという。アクロポリスにより多くの神殿を作る事がアテネの栄光をより高める事になるとも考えられていたという。
古パルテノン神殿はペルシャ帝国軍の攻撃で破壊されてしまったため、更に巨大な神殿の建設が始まった。この時に、土台となる岩山の頂上は石灰岩の土台で覆われ巨大な人口の高台が作られた。それより始まったアクロポリスの計画は前代未聞とも言える大掛かりな計画であった。
入り口である門は高度な技術の証としてプロピュライアが設けられ、その隣には勝利の女神を称えるアテナ・ニケ神殿が置かれた。丘の北東部分には海の神ポセイドンに捧げるエレクテイオン神殿が建てられた。その南側には現在まで残り、アテネのアクロポリスを象徴する最も壮麗な建造物となって蘇ったパルテノン神殿が建てられた。
この一大プロジェクトは紀元前447年、パルテノン神殿の建造を皮切りにスタートした。パルテノン神殿は建造自体は9年で、装飾に6年の15年という驚異的なスピードで完成した。パルテノン神殿の内部には黄金を纏った女神アテナの像がつくられた。この像に使われた黄金は1000キロを超えていたという。その右手には勝利の女神であるニケの像を乗せていたという。この像は高さ2メートルもあり、女神アテナの像に至っては12メートルにも及んでいる。左手には槍と盾を携えていたという。パルテノン神殿の巨大な広間はこの像を置くためだけに作られていたという。
この一大プロジェクトは僅か40年の間に4つの建造物を生み出すに至っている。パルテノン神殿が出来た11年後に紀元前421年にアテナ・ニケ神殿が完成し、紀元前406年にはエレクテイオン神殿が建造された。一方、プロピュライアは紀元前432年に始まったスパルタとの戦争の為に建造が中断され、そのまま未完のままで放置される事になった。
このアクロポリスは何世紀にもわたり、要塞として機能するようになったが15世紀にオスマン帝国がこの地を支配するとアテナ・ニケ神殿は解体され、その上から防壁が築かれてしまう。その後、パルテノン神殿、エレクテイオン神殿、プロピュライアも戦闘によって一部が崩壊してしまい、現在の状態となった。

驚くべき建造技術

このアクロポリスは現代の建築家もうならせる立地条件のいい場所に建てられている。
更にパルテノン神殿にも驚くべき建造技術が用いられている。パルテノン神殿は中央部が少しだけ盛り上がっているがこれは偶然でも建築ミスでもない。人間の目の錯覚を計算に入れ、あえて高低差を付ける事で水平に見えるように設計されていた。これはパルテノン神殿を肉眼で見た時に最も美しく見えるように細部まで緻密に計算された結果だという。人間の視覚が生み出すずれを見事に調整し完璧な外観を作り上げていた。
それはここだけの話ではなく他の建造物にも見られる。例えば、円柱は一見すると垂直に立っているように見えるが全てがほんの少し、内側に傾ている。しかも、円柱の太さも中央だけ少し膨らんでいる。エンタシス*3と呼ばれる技法で肉眼だと中央だけ細く見えるそれを中央だけ膨らませる事で真っすぐに見えるようにされている。パルテノン神殿の殆どにこういった曲線やふくらみが見受けられる。同じ形をしたパーツはほとんどなく、入れ替える事すら出来ない程、箇所によって緻密な設計がされているのである。これが意味するのは古代ギリシア人は人間の視覚を知り抜いていた事を示している。
そして、これは驚くべきことに紀元前5世紀に建てられたアクロポリスの他の建造物にも同じことが言えるのである。
これは古代ギリシア人の技術力の高さを証明している。現代のように重機などもなく、パソコンを用いた設計も出来ない、すべてが手作業の時代に現代にも負けない技術力が2500年前まであったという事を現代人に遺跡として知らしめている。これらはビザンツ・ギリシア帝国において祖先たる古代ギリシア人を尊敬できる偉大な人々とさせると同時に自分たちの民族が優秀だと示す根拠とされている。これらはナチスドイツが掲げたアーリア人思想とは違い、人種は違えどこの地の祖先に本当に実在し、根拠らしい根拠とされている。その思想を受けた人々は祖先たちにも負けないと知らしめるべく自分たちなりの方法で優秀さを示している。
また、国を挙げて復元と復旧が始まると更なる技術力の高さを知る事になった。プロピュライアは20世紀に修復が開始されたがその際に一部の大理石が崩壊寸前であった事からそこから修復が始まった。しかし、大理石同士をくっつける役割のモルタルが使われた痕跡はなく、代わりに接合部には穴とそこに埋め込まれた大きな鉄の釘が発見された。それらは大理石同士をつなぎ合わせ、補強する役割を持っていた。この鉄の釘は錆止めの為に溶かした鉛が入れられていた。鉛を用いる事で錆止めの他に石がくっつき、ずれるのを防いでいたという。これは古代ギリシア人たちが石材を安定させるための新たな方法を生み出していた事を示している。工夫に富んだ技術により建造物の安定性は飛躍的に高まり今日に至るまで残っている要因となった。本来、アテネは地震の多い地域に分類されるにも関わらず、アクロポリスが地震で倒壊したという事例はない。これは地震を想定して設計されているからでありそれは円柱にも見る事が出来る。円柱は幾つものパーツに分かれておりそれぞれの接合部には木製の楔と栓が入れられている。これは大理石の摩擦を無くすと同時に揺れを吸収する役割を持っている。これにより建物の崩壊が防がれているという。
このように、パルテノン神殿を始めアテネのアクロポリスには現代に匹敵する建築技術が使われている。現在、アクロポリスの修復は終了には程遠い所にある。更に、建築技術の中には現代のコンピューターを用いても再現どころか模倣も難しいとされるものがいくつもあり、技術の全容解明にはまだまだ時間が掛かるとされている。完全な修復は不可能若しくは数世紀は必要とされておりまだまだ時間が必要である。

復興の始まり

ギリシア神話に関する関心が強くなるとその象徴とも言えるアクロポリスへの関心も高まっていった。そして、1893年時の皇帝コンスタンティノス12世の号令によりアクロポリスの復旧が開始された。当時、ギリシア人ではない皇帝に対する不満が高まりつつありそのはけ口として利用した形だが利用するだけだったはずのコンスタンティノス12世がギリシア文化に惹かれてしまい本人の強い意志で復旧が行われる事となった*4。そして、幾度もの復旧の末にオスマン帝国によって解体されたアテナ・ニケ神殿は当時実際に使われていた材料を使って復元された。現在は当時の様子を見る事が出来るようになっている。
2012年、パルテノン神殿の南西部の修復が開始された。ここには当時モスクが建てられ、一部の柱を埋めていたがその中から保存状態の良い柱が発見された。そこには当時使われた顔料の後が残っておりパルテノン神殿の色彩が判明された。時間の経過で黒ずんでいる部分もあったが最新技術を用いる事で顔料の特定に成功した。これにより、パルテノン神殿が当時どのような姿をしていたのか判明する事になりＣＧを用いた予想図が完璧に近いとされる状態で作られる事に成功したのである。これを基に現在でも修復は行われ、かつての栄光の象徴を蘇らせるこれらは今後、速度を速める事が出来るだろう。